ヒトの記憶は完全にデータ化できるのか?そこに見る危険性とは
Share
ヒトは記憶を残すためにさまざまな手段で記録を残します。時に手帳を使い、時にスマホを手に忘れたくないことをメモします。そのような記憶をすべて記録しデータ化しようという会社があるのをご存知でしょうか。
「記憶を記録する」サービスの始まり
アメリカのスタートアップ企業"Scribe AI"では、ヒトの記憶をすべてデータ化し、なおかつ容易に検索できるシステム開発に取り組んでいます。最初の製品としては、"Zoom"のアドオンとして音声と動画をデータ化し、その言葉や発言時の様子を記録するものとなっています。
このScribe AIを立ち上げたダン・シロカー氏は、自身が"アファンタジア"という症状であることを自覚したことで記憶の研究を始めたそうです。
アファンタジアとは、頭のなかで視覚的なイメージができない症状のことです。具体的にはたとえば、犬を思い浮かべようとしても脳内ではその姿を画像として描くことができません。
このようなアファンタジアを持っている人は意外にも多く、50人にひとりは該当すると言われます。たとえばピクサーの共同創設者エドウィン・キャットマル氏は瞑想時に自身がアファンタジアであることに気づき、周囲に聞くとリトル・マーメイドのトップアニメーターも同じだったそうです。
もちろんアファンタジアであっても、ピクサーの例のようにすばらしいアート作品を生み出しています。アファンタジアは多様性のひとつにすぎないと認識されています。
「記憶のすべてを記録する」サービス提供を
一方でエンジニアであり起業家でもあるシロカー氏は、曖昧になる記憶をノートに残すのではなく、ちょっとした出来事を含めあらゆる記憶を完全に呼び起こせるサービス提供を思い立ちます。
とはいってもそれは脳に直接アクセスするのではなく、すべての記憶をデータ化し検索できるように保存するという形になります。動画や音声、さらには生態情報もデータとして格納しておこうというわけです。
現実としてはScribe AIが今のところ提供しているサービスは、Zoomにおける出席者の発言やその様子を記録するにとどまります。しかし長期的なビジョンとして、あらゆる記憶にアクセスし日常生活で役立てることを目指しているようです。
「すべてを記録すること」はすでに始まっている?
記憶とテクノロジーの融合という側面からみると、すでに記憶の自動記録は始まっていると言えるかもしれません。たとえば日常生活での会話を記録することができるスマートスピーカー。アメリカではこのスマートスピーカーに記録された音声が、殺人事件の法廷で証拠として提出されるようになっています。
スマートスピーカーの記録は、第三者には確認がとれない供述の立証に役立ちます。つまり個人の記憶が記録によって外部で確認できるということです。
すべての記憶を記録することに潜む危険性とは?
これは逆に言えば、ある意味で危険性を含んでいると考えられます。もし記録された記憶が書き換えられていたら、という危険性です。
たとえば個人のすべての記憶を保管しているサーバーがハッキングされたら、どうなるでしょう。
その点に関してシロカー氏は「個人ごとの保管場所に置く」ことで対処できるとしています。しかし記録を書き換えることの必要性についても語っています。
もしあらゆる記憶が記録され、時に何かの証拠として提出されることがあると意識したら、どうなるでしょう。シロカー氏は、ちょっとした会話でも意識し、言葉を選ぶようになることを危惧しています。そこで、気に入らない発言は削除できる機能も必要であるとしています。
これはつまり、記憶の編集であり個人の記憶の書き換えにもつながると考えられます。そして注意すべきは、自分の記録には他人の言動も含まれるということです。これはつまり、他人の言動に関しても自分の記憶とともに「編集ができる」ことにつながります。
個人の記憶をすべて記録することに関しては、考えるべきことは多そうです。
まとめ
ライフログのように自身の記録をできる限り残したいという方は多いでしょう。そして記憶をすべてデジタル化して記録するという取り組みも始まっています。しかしそこにどのような危険性が伴うのかについても、考えるべきことは多いと言えます。