DTxとは何か?これから慢性疾患はモバイル機器で治療する時代に?
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アプリを使う医薬品『DTx』というものをご存知でしょうか。これはデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics)の略ですが、モバイルアプリなどを通じて患者に「エビデンスベースの治療」を届ける技術のことです。
DTxとは何か?
DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス)とは、「科学的根拠に基づいたソフトウェアを使った治療手段」のことです。具体的にスマートフォンなどのアプリという形になります。
日本ではベンチャー企業のCureApp(キュア・アップ)が開発し医療機器として承認されたニコチン依存症患治療アプリがあります。
DTxは具体的には、たとえば喘息などの呼吸器疾患をわずらう人に医師から処方されるといった形になります。
呼吸器にセンサーを取り付け、アプリと連動させて医療データを蓄積し、医師は患者に適切なアドバイスを行います。これにより、通院回数や吸入回数を減少させることが可能となるわけです。
DTxの販売には、医療的効果のエビデンスが必要です。日本では規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請し、そのうえで厚生労働省の承認が必要となっています。
DTxが普及する背景とは?
DTxが求められる理由は、「医療費の削減につながる」からです。特に個人の医療費負担が大きなアメリカでは、DTxを利用することで自身の健康をコントロールし、金銭的負担が軽減されると言われます。
サンディエゴで2018年に開かれた臨床腫瘍緩和ケアシンポジウムでは、次のような発表がありました。
がん患者の疼痛管理を行うAIアプリを使って痛みの緊急性を判断したところ、痛みで入院するリスクはアプリを使用していない人より70%低かったそうです。これは相談できる専門家がいなくても、アプリを使うことで患者の心理的負担が軽減されるのが理由と考えられます。
コロナ禍において不安やうつなどメンタルヘルスの問題も増加するなかで、このDTxの重要性が増しています。すでに遠隔医療と慢性疾患モニタリングサービスの会社が185億ドルかけて合併した例があるように、今後5年間でDTx市場は560億ドルに達するとの予想もあります。
DTxに参入する疾患領域の特徴
DTxはあらゆる医療に対応するわけではなく、今のところデータやデジタルを活用しやすい疾患領域での参入が進んでいます。
アメリカのデトロイトでの調査によると、DTx市場の熟成度が高い疾患領域としては内分泌、CNS(中枢神経)、循環器が挙げられます。
これらの疾患領域に共通するのは、リモートでのモニタリングと相性が良いということです。治療により、重症化を予防することにDTxが役立っています。
DTxの技術面での課題
DTxはデータを蓄積できるという点から、将来的にはAIを使っての完全自動化が見込めます。しかし現状としては、まだその域にまで達してはいません。
今のところは人力でアルゴリズムベースでのプログラムを組み、個人のデータを埋め込んで適切な指導をするという形でアウトプットしています。
すべてを自動化し医師の負担を減らすためには、まだまだ時間がかかりそうです。
新型コロナウィルスがDTx普及を加速させる
アメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)が2020年4月、あるガイドラインを発表しました。そこでは、認知行動療法で使われるDTxなどを対象に、条件つきで所定の審査を経ることなく市場へ出してもよいとしています。
具体的には、アプリなどソフトウェアを開発・製造する企業の開発能力やテスト能力が一定の条件を満たしていれば、低リスクと判断されたソフトウェア製品を医療機器の審査を受けずに市場に出せるということです。この"プレサート施行プログラム"に選定されている企業は、アメリカではジョンソン・エンド・ジョンソン社など9社あります(2020年7月時点)。
このような制度下において、DTxはさらに普及することが期待されます。
まとめ
DTxを含むデジタルヘルス技術が発展することで、消費者は自身の健康についてより良い情報をもとにした判断ができるようになると言われています。そして疾病の早期治療や予防につながり、慢性疾患の治療を自身で管理しコントロールすることができると考えられます。